◇その2(2002年製作)

木工の草木染め



2002年2月の作品
楽器への装飾は何度か考えたことがあったのですが、彫刻などの技術は持ちあわせていなかったし、興味もあまりありませんでした。本屋で草木染めの本を偶然手にしてピーンと来たのです。これぞまさに和製カリンバ!優しい色合いと、木目を潰さない透明感のある仕上がりがすごく気に入りました。
染料は木目に沿ってしみ込みやすいので、ロウケツという、染めたくないところに熱いロウを塗って、防水しながら好みの模様を染めていきます。染料に野草を用いるのも、どう染まるかやってみないと分からない楽しさがあります。今回は花びらにスオウと生ミョウバン、茎には春菊と硫酸第一鉄を使ってみました。春菊の煮汁は薄緑色をしているのですが、鉄で色留めをすると薄墨色になりました!面白いですね〜。
一番下の写真が染めを始めるに当たってそろえた品々です。藍熊染料さんから通販でそろえることが出来ます。また、木工品染めでは今のところお手本になるのはこの本だけではないでしょうか。
日貿出版社 藤井三枝 著『木工芸の草木染め入門』
表現の可能性の大きさを感じます。

バックロードホーン式


試聴サンプル音
2002年3月の作品
バックロードホーンというのは本来スピーカの構造の一種なそうで、低音を増幅する働きや、後面から出た 音が前面に出た音と干渉することで起こる音量不足を防ぐ働きがあるそうです。
しかし、今回は、この構造の複雑さに注目しました。楽器内部の空気に複雑なモードを与えることで、固有振動を少しでも和らげ、どの音も良くなるようにしたいと思いました。キーのついている板の下は二つの層になっており、上が空気室、したがホーンの部分になってます。
出来上がってみれば、ほぼねらい通り、どの音も良く鳴るようにになりましたが、構造が複雑になった分いままでより高い精度が求められるようになりました。おまけとしては、キーを弾くストロークの音まではっきり聞こえる、表現の幅が広がる予感がする楽器に仕上がりました。指の腹で弾いたのと爪の方で弾いたのでは音が全く違うのは意外でした。好みもあると思いますが、僕は好きです。

猫型&魚型



シナノキのくりぬきカリンバの続編です。 シナノキは彫刻材としてもよく出回っているので、厚みのある材でも案外手に入りやすいです。
そして猫型カリンバと魚型カリンバに仕上げるべく彫りあげ、涙型カリンバと同じタイプのキーを10本取り付けました。表板はアガチスです。やっぱり、シナノキは手触りがとても優しくて好きです。小さいお子さんの手に丁度いいことを期待してます。
あと、外見からは分からないのですが、シェーカーを内蔵したので、振るとちゃっちゃっと音が出て楽しいです。(o^-^)oいろんな遊び方が出来ることでしょう。子供は遊びを考え出す天才だからなぁ。かわいがってあげてね♪

ペアのティアドロップ



2002年4月の作品
今回は、涙型カリンバの側面に染めを施してみました。黒い方はゴバイシと硫酸第一鉄、赤い方はスオウにミョウバンです。栃の特徴としてきれいな波状の模様(杢『もく』)が出ることがあります。見る角度によって模様に動きがあるようでとても面白い作品になりました。
楽器ですから、もちろん音も良いですよ!キーに鉄と真鍮をそれぞれ使ってみました。鉄には芯の強さが、真鍮には伸びやかさがあったように思います。

イヌエンジュのティアドロップ



2002年4月の作品
この作品は3月に催した「今さら聞けない初歩の数学とカリンバの昼下がり」というイベントの抽選プレゼントとして作りました。当選者は宮城野区のSさんでした。おめでとう!(^o^)/
材質はイヌエンジュ、キーは真鍮です。イヌエンジュは磨くととても光沢の出る木で、堅いのに比較的加工性がよく、僕の好きな素材でもあります。どの素材もそうなのですが、木目を無駄なく面白くとるのを考えるのが、制作の初期の段階の楽しみでもあります。以前作ったバックロードホーンカリンバもイヌエンジュで出来ています。

裏に彫刻をしてみました



音を楽しむと同時に、手のひらサイズに収まるティアドロップは、装飾も楽しみの一部です。この作品はイチイの木に二匹の蝶を彫ってみました。さりげない彫刻なら、音にもさほど影響を与えません。
なぜ彫刻をしたかというと、イチイは針葉樹で、染めはあまり適さなかったからです。試しにイチイの端材でそめてみたら蝋でよけたところまで染料がしみてしまいました。制作はいつでも同じ方法が通用するわけではなく、常にその時々でベストの選択をせまられます。
2002年4月の作品

ケヤキのティアドロップ



金属は、熱を加えないで変形すると硬く(もろく)なります!柔らかい(延びる)金属もこの効果を利用してバネ材に変えることができました。他にも焼きを入れたりする方法もありますが、この世界も奥が深いぞ。やってみたいことがいろいろあります。どのくらい硬さをコントロール出来るか?など。ステンレスを打ち出してバネ材にしてみました。
初のケヤキカリンバです!硬くてネジの保持も良いです。枕木は栗の木。真鍮の駒はあのように折っておくと 力の掛かり具合でしっかり固定される仕組みになっているのですね。そういえばアフリカのカリンバのいくつかにこのような工夫がされていてやっとこさ「なるほど!」と理解した次第であります。
アフリカのは、まだまだ「なぜこんな形にしてあるの?」という疑問の部分もあるのですが、もしかするとまた分かるときもあるのかもしれません。ただ真似するのではなく試行錯誤の中で体得していきたいですね。
2002年6月の作品

吉祥天カリンバ



このタイプのカリンバを思いつき、作り初めて以来、音も形も徐々に洗練されてきたように思います。本体はメープルで、紫の縁取りはエゾマツで出来た半円形の振動板に接しており、音を増幅する仕組みです。キーはステンレス。
「吉祥天さまのようなイメージで制作して下さい」とご依頼をいただいて、今まで作った中で一番華やかな楽器にしてみよう!と思い、木目の流れやろうけつ染めもコダワリの作品となりました。(とはいえ、楽器なので良く触れる部分には模様を入れないことにしました)
また、今回の隠れたポイントは、ネジを一本も使用していないということです。
2002年7月の作品

スタンダードな箱型



ちょっと基本に戻ってみたくなり、誰もが見慣れているスタンダードなカリンバを作ってみました。上の板は台形になっていて上の辺が短めになっています。キーはステンレス。
今回使った木材はタモという木で、硬くて目の粗い木です。硬くて緻密な部分と導管の通ったすかすかの部分がはっきりと交互に表れています。結果として軽くて弾力のある素材でした。音がとても良くなりました。比較的柔らかい音です。
2002年8月の作品

二段ティアドロップ





ついに二段型のティアドロップを作ってしまいました!小さいので、絶対むりと思っていたのですが、知恵を絞ればなんとかなるものですね。裏から突き抜けている段は表の段より1オクターブ音程が高く、キーも短いです。手のひらサイズに2オクターブが収まりました。
キーはステンレス。本体は欅です。細工が凝っているのでなるべく堅い木を選びました。そして、いつもよりちょっと厚めに木取りしました。ちょっと重いかな?
2002年10月の作品

メープル箱、ピアノ線に焼き入れ




試聴サンプル音
メープルは緻密で硬く、やや重い木です。バネの力のとても強いピアノ線のキーを取り付ける事で音の持続の良い楽器を作るのに挑戦しました。ピアノ線はバーナーであぶり、赤いうちにハンマーでたたき、加工します。しかし、そのままでは針金のように柔らかくて使えないので、さらに熱処理を施して必要な硬さに調節します。初めはなかなか難しく、キーが揃うまでに何本かの失敗作が出来てしまいました。
この楽器はサウンドホールは細長いのが二段ありますが、下の一段は小さい別室になっていて、丁度左の図のようなシェーカーが内蔵してあります。ピアノ線が中に入っていて、降るとしゃんしゃんと音がします。
2002年11月の作品

イチイの箱型/ティアのセット



板目のイチイ材でティアドロップと二段のセットを作りました。同じ板から生まれたいわば兄弟の様な楽器達です。(^-^) 箱形の筐体と持つカリンバには目がなるべく真っ直ぐな所を、ティアドロップには木目がダイナミックにうねっている所を使いました。白い部分は辺材が混じっている所です。コントラストがとても奇麗です。
キーはステンレス。この二台を合わせれば、3オクターブの音域をカバーできます。時間が経ってイチイの色合いが深まってくるのがとても楽しみですね。
2002年12月の作品

小さな箱型



箱形としては小さめ(約10×13cm)のタモ製の筐体に、ペンタトニックの音階を付けたステンレスキーを取り付けました。柔らかい音です。また、独特のサウンドホールはトレモロをかけるのにとても便利です。ホールの丸いところをふさいだり離したりして「ワウワウワウ…」という効果を付けます。
仙台壱弐参横丁の「すあらばぐーす」様でこの楽器を置いていただいておりました。
2002年12月の作品
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