半音階カリンバその2(しずくちゃん号)
サンプル音
ここにご紹介する作品は、工房パートナーしずくちゃんの作品です。彼女は一年がかりで自分のクロマチックカリンバを製作しました。僕は他の製作があったのでいくらかのアドバイスはしましたが、実作業はほとんどやっておりません。彼女は強い情熱を持って、今までノミやカンナも使った事がないにも関わらず、ここまで仕上げました。
音域は4オクターブ。以前僕が作ったものより高音側に広くなりました。美しい高音を出すためにはキーの厚みの調整が欠かせなくなります。楽器のサイズも大きくなったので、低音も豊かに鳴るようになりました。
キーの調整にはこれからも弾きながらじっくり時間をかけて行う必要があると思いますが、少しずつ成長していく楽器を見るのがとても楽しみです。また、自分以外の人間が制作している様子を見るという事は今までない経験だったので、僕にとっても勉強になりました。
♪しずくちゃんからのコメント♪
自分で弾くには自分で作るしかない、ということで毎日ちょっとずつ作りながら 「しずくちゃん号」は誕生いたしました。 工房主をはじめ多くの方のお力を借りながら、やっと「想い」が 形になって現れたという感じです。 「楽器」というにはまだまだ未熟な彼女(?)ですが、作り手・弾き手であるしずく ちゃんもまた 「彼女」と過ごす中で育てられてゆくんだなと思っています。 ひょっとしたら「しずくちゃん号」のほうがしずくちゃんにお付き合いしてくれてる のかもしれない、 と思ったりするのです。
メタルカリンバ(空工房とのコラボレート)
金属工芸家の佐々木里恵さんとの共同製作で実現した、すべて金属で出来ている手のひらサイズのカリンバです。 本体の製作は佐々木さんです。非常に精巧で、かつ味のある作りです。キーは僕が打っています。
キーを留めつける際、駒と抑え棒、枕木の位置関係がとても微妙で、0.1ミリ単位の精度で製作していただいています。 それによりキーの弾力だけで本体としっかり留るように出来ています。材質は洋白と真鍮を組み合わせて、上のグリーンのは 表面に酸化処理をして発色しています。センスと仕事の細やかさに脱帽でした。
はじめは、どうやったらどんな音が出るか分からず、使用する金属の種類や厚みキーの太さなど、試行錯誤が続きました。小さくてかわいい音のなる楽器になりました。音はとても良くのびますが、本体が木の時と違って、高い倍音がきらきらとかすかに響きます。ちょうどオルゴールの中の部分だけを聞いているようです。佐々木さんは様々な金属工芸を作ってらっしゃいますが、今までの作品の中にも音の鳴る小さなアクセサリーなども手がけていて、目にも耳にも楽しいものがあります。
ダブルキーカリンバ
サンプル音
この楽器は一つの音に二つのキーを使った、非常に贅沢な作りです。その効果は、音の伸びが長くなる事、そして、 わずかの音の違いから来るコーラス的な音色になる事です。キーが三つのグループに分かれていますが、左右がピアノの白鍵、中央が黒鍵の音に対応しています。製作も難しかったです。おそらく演奏も技術を要するかもしれません。 とてもユニークなパフォーマンスが出来ると思います。
形もユニークになりました。合計48本のキーを両手の親指と人差し指で演奏するために振動体のしたの方の両側のくぼみに小指を引っかけて持ちます。ムビラの右手側にある小指を通す穴をヒントに考案しました。
そして今回は初めて曲げ木に挑戦しました。共鳴体の側面はギター用のマホガニー材を曲げて底にスプルースを張り、桶状の共鳴体にしました。
複雑な構造になると響きのバランスを取るのも難しくなってきます。しずく型の共鳴体内側にはさいころ状の真鍮の分銅が取り付けてあります。試行錯誤の末、この楽器についてはこの方法に落ち着きました。
缶カリンバ
「小さな街」の小野さんの誘いで、初心者向けのカリンバ作りワークショップを行いました。 コンセプトは、空き缶を共鳴体に使った小さなカリンバを十人分ということでした。 材料はあらかじめ組み立てるだけの状態まで工房で作っておき、ワークショップの数時間のうちに参加の皆さんに作ってもらう。というそんな段取りでした。
しかし作り始めてみるとなかなか難しかったです。まずイワシのオイル漬けを短期間に10個食べなければいけない(^o^) 缶の上に板をはめ込むのですが、ぴったりはまる様に板を削るのはとても根気のいる作業でした。缶は一つ一つ微妙に形が違うので全部型通りに一気に作ると言う訳にはいかなかったんですね。
ともあれ、参加して下さった皆さん本当に一生懸命作ってくれました。好奇心に目を輝かせて打ち込んでくれる姿には胸を打つものがありました。僕にとっては初心に返るとてもいい機会になりました。ずっと弾いてくれると良いな。たくさんの出会いに感謝しております。
セミソリッドカリンバ
以前作った板カリンバの様な芯のある音と、箱の共鳴を組み合わせたらどうだろうという発想からこの楽器を作りました。 枕木や押さえ棒、駒などのパーツが集中している所の板厚をたっぷり取り、周辺に向けてだんだんと薄くなって行く構造を 持っています。
結果はなかなか良好でした。共鳴箱の上の板は中央で15ミリ、周辺は4ミリあります。上の板全体を薄い板にする場合、 なかなか高音部分が安定せず、詰まった音になりがちでした。この構造ではそれがある程度は改善される事がわかりました。 また音の伸びも良くなりました。
もうひとつメリットとしては、キーと上板の間の空間が広くなるので弾きやすくなると言う事もあります。また、駒を板の 中程に取り付ける事で枕木の上側も共鳴に積極的に使えるのではないかと考え、こういうデザインになりました。
ペンタトニック5オクターブ
上のセミソリッドの効果をさらに応用させて、音域5オクターブのペンタトニック(5音階)の楽器を作りました。普段はカリンバ用のピアノ線は直径2ミリのものだけを使っていたのですが、この楽器では低い音はもっと太い2.6ミリを使い、音程を上げるにつれどんどん細くなり2.3ミリ、2ミリと来て高い音では1.8ミリを使いました。
音階のチューニングは最低音のド(C2)の音の倍音列から選びました。だいたいピアノの音で言うとド、レ、ミ、ソ、シ♭なのですが、ミの音はちょっと低め、シ♭は半音したのラの方に寄ってるため、ちょっと聞き慣れない音に聞こえるかもしれません。このような音を選ぶ事で、たくさんの音が重なった時に、楽器の音域よりも低い音がうなっているように聞こえる事があるのです。差音という現象が関係しています。
さらにキーにチェーンを垂らす事で、シャワーの様な効果音が入り、アドリブで気ままに音をかき鳴らすととても気持ちが良いです。左下のムービーで是非音を聞いてみて下さい。
※2022.5.1追記
現在ユーチューブで視聴できます。youtubeリンク
また、この楽器と同タイプ(チューニングはドレミソラ)の動画もお楽しみ下さい。pentatonic5oct.mp4:ファイルサイズ40MB
ティアドロップ型ボックス
今までにも度々制作して来たティアドロップ型のカリンバですが、一回りサイズを大きくして、中を空洞にしたものを作ってみました。サイズも音量も小さくてかわいいのがティアドロップの魅力ではあったのですが、ちょっとだけ大きくしてみると、この形の面白さががまた違うやり方で引き出せたように思います。
側板はマホガニーの曲げ木で、厚さ3ミリくらいの板を曲げています。曲げ木は楽しいです。でも小さいものでは曲率もきつくなるので割れないように注意しなければなりません。上板は外見は薄いのですが、音を安定させるために内側でちょっと厚くなっています。首からかける紐を通す穴も健在です。かわいい顔は口の部分がサウンドホールになっています。
今回はアクセサリー的な楽しさもありつつ弾けるものが欲しかったので、大きさについてはいろいろ考えました。結局は大人の手のひらぐらいの大きさになったのですが、中空なので軽く仕上がったと思います。